歪んだ自己愛性格
「歪んだ自己愛人間」を考える場合、「人格障害」と呼ばれる精神障害について知っておく必要があります。 専門用語としての人格障害(Personality
Disorder)とは、単なる性格の偏りではなく、平均的な人々の範囲から見て、ものの考え方や感じ方、行動の仕方が常に著しく偏っている精神障害で、自他ともに苦しみを引き起こします。その偏りは幼児期〜思春期に現れ、成人にまで持続し、周囲の状況に応じて行動様式(ライフスタイル)を変えるような柔軟性を持ちません。
病因は解明されていませんが、1)遺伝子が発病の一因であると考えられている、2)親の性格や接し方、文化の価値基準などが影響を及ぼすと考えられている、3)誕生前の脳の成熟異常、誕生後の脳や中枢神経の障害、神経伝達物質やホルモンの変化などのかかわりが指摘されています。しかし、2)が最大の病因であることは間違いないようです。
人格障害は、アメリカ精神医学協会が刊行している「精神障害の診断と統計のためのマニュアル(Diagnostic
& Statistical Manual of Mental Disorder - DSM)に基づいて診断が行われることが一般的です。DSMは、第一版が1952年に刊行され、今は1994年に刊行された第四版が最新版となっています。
DSM-Wでは、全部で11種類ある人格障害を、3つのカテゴリーに大別しています。
(A) 奇妙で風変わりな人格障害群
- 妄想性人格障害
- 分裂病質人格障害
- 分裂病型人格障害
(B) 感情の混乱や過剰を特徴とする人格障害群
- 演技性人格障害
- 自己愛性人格障害
- 反社会性人格障害
- 境界性人格障害
(C) 不安の強さを特徴とする人格障害群
- 回避性人格障害
- 依存性人格障害
- 強迫性人格障害
- 受動攻撃性人格障害
DSM-Wには、それぞれの人格障害を「診断」するための基準(項目)が記されていて、例えば、6の反社会性人格障害には、
- 法を守ると言うことができない。逮捕の原因となるような行動を繰り返す。
- 人をだます傾向がある。自分の利益や快楽のために嘘を使うことが多い。
- 行動に衝動性が強く、自分の将来の計画が立てられない。
- 怒りっぽく、攻撃性である。
- 向こう見ずで、自分や他人の安全を考えない。
- 一貫して無責任である。仕事を続けられなかったり、借金を返済しなかったりする。
- 良心の呵責を感じない。人を傷つけても、いじめても、ものを盗んでも反省ない。また繰り返す。
などの項目があり、これらのうち3つ以上当てはまる場合に、反社会性人格障害と診断されます。
映画「アナライズ・ユー」の中で、ビリー・クリスタル演じる精神科医の主人公が、ロバート・デニーロ演じるマフィアのボスの精神障害の診断を尋ねられたシーンで、「反社会性人格障害の疑いがある」とコメントしていました。まあ、当たり前ですね。マフィアのボスなんですから。
大阪池田小連続児童殺傷事件の宅間被告なども、典型的な自己愛及び反社会性人格障害者です。宅間被告は、社会エリートに対する自己愛的怒りから、計画的に、将来のエリート候補である有名小学校を襲い、児童を殺害したのです。
また、「17歳のカルテ」という映画では、主人公のヴィノラ・ライダーは、「境界性人格障害(Borderline
Personality Disorder)」と診断されて、精神科施設での治療をすることになり、その施設での物語が展開されます。また、少し古いですが、「危険な情事」という映画では、主人公のマイケル・ダグラスをストーキングする女性は、かなり重度の境界性人格障害者です。
それでは、当サイトに関連のある「自己愛性人格障害」について見ていきます。
前述のアメリカ精神医学協会のマニュアルであるDSM-Wによると、自己愛的な人格については次のように規定されています。
- 自分が偉くて、重要人物だと思っている。
- 自分が成功したり、権力をもったりできるという幻想を持ち、その幻想には限度がない。
- 自分が特別な存在だと思っている
- いつも他人の賞賛を必要としている
- すべてが自分のおかげだと思っている
- 人間関係の中で相手を利用することしか考えていない
- 他人に共感することができない
- 他人を羨望することをが多い
このうち、5つ以上の項目にあてはまれば、自己愛性人格障害であると診断されます。
*これはトレーニングを受けた精神科医によって診断されるべきもので、素人がある人物を「人格障害」と診断するのは極力控えなければいけません。ただし、自分の上司が自己愛的な人格を持っているかどうかの目安には活用できると思います。
また、ここで勘違いしないで欲しいのですが、この項目にあてはまるからと言って、それイコール「自己愛性人格障害」ではないということです。
実際には、「自己愛の傾向が強い人」から「自己愛性人格障害」まで幅があります。それに、私たちは誰でもこのような「自己愛性」の側面を持っているし、それが個人の活動の源になっているのです。実際、経済界でカリスマと呼ばれた名経営者の多くが、強烈な自己愛人間であることが知られています。マイクロソフトのビルゲイツ、アップルのスティーブジョブズ、GEのジャックウェルチなどです。ある意味、強烈な自己愛がなければ、厳しい競争を勝ち抜けないのも事実なのです。

自己愛の諸特徴 『満たされない自己愛 − 現代人の心理と対人葛藤』 32 page
しかし、「自己愛」が歪んでしまうと、周りを精神的に虐待する人間となるのです。特に、力関係のはっきりしている職場では、その権力をフル活用して、精神的虐待(モラル・ハラスメント)が行われます。
自己愛人間には、モラル・ハラスメントを行っているという自覚は、基本的にはありません。しかし、自己愛に反社会性が加わった場合、意図的に精神的虐待を行うことがあります。人格障害と知能に相関関係はなく、頭の切れる人間が、自己愛と反社会性の人格障害を持った場合、最も恐いのです。
映画「模倣犯」の主人公などは、まさにこの自己愛と反社会性の人格障害者です。映画を見たことがある方は、もう一度、上記のDSM-Wの診断基準(自己愛性人格障害&反社会性人格障害)を読んでみてください。

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